1. エリートの私が「塾」に走らなかった理由
自己紹介でもお話しした通り、私は世間一般で言う「教育エリート」の道を歩んできました。
ただでさえ「医者」というだけで、周りの人からは、 「お母さんがお医者さんなんだから、お子さんもきっと優秀よね」 「やっぱり将来はお医者さん志望かしら?」 なんて言われてしまいます。

いやいや、現実はそんなに甘くないんです……!
「お子さんも早くからSAPIX(サピックス)の入塾テスト対策をしてるんでしょう?」なんて聞かれることも、日常茶飯事でした。
でも実は、我が子にはまったくそんな対策をしていません。 むしろ、いま我が家が毎日の家庭学習のメインにしているのは、そこらの本屋さんに普通に売っている『市販のドリル』です。
私が「とりあえず大手の塾へ!」という選択をしなかったのには、自身の経験からでした。
2. 受験戦争の勝者だからこそ分かる「基礎力」の大切さ
◆ SAPIXで見た「天才の失速」
私がSAPIXに入塾したのは小学5年生の時でした。 初めて成績優秀者名簿を見た時、「同じ学年にこんなにすごい人がたくさんいるんだ!」と新しい世界にドキドキしたのを覚えています。
特に目立っていたのは、名簿の常連だった男子のS君。少し騒がしい子だったこともあり、すぐに名前を覚えました。「S君みたいに賢くなりたい!」と憧れて、私も一生懸命勉強したものです。
しかし、5年生の終わり頃から、あんなに天才だったS君の成績がどんどん落ちていきました。気づけばクラスの階(フロア)まで変わってしまっていたのです。S君に限らず、小さい頃から入塾して良いクラスにいたはずなのに、5年生以降どんどんとクラスを下げていく子はたくさんいます。最終的に上位4クラス(α1−4)にいる子の多くは、4年生以降に入塾していましたし、中には6年生から入ってきた子もいました。
後になって、自分が家庭教師をして多くの生徒を見るようになってから、当時のS君の理由がハッキリと分かりました。 彼は「1ヶ月分の復習のみ」で挑む通常の組み分けテストはできるけれど、その単元が終わるとすべて忘れて次に進んでしまっていたため、これまでの総まとめである実力テスト(模試)が解けなくなっていたのです。
◆ 大量テキスト主義の罠
人間にはそれぞれの能力(キャパシティ)があります。1を覚えてそこから1億の応用を導ける天才もいれば、1000を覚えてやっと1500を身につけられる凡才(私を含め)もいます。
御三家やトップ校を目指すには、SAPIXの大量の宿題をすべてこなす必要があるでしょうし、実際それがこなせる体力お化けのような子が存在していて、そういう子は軽々合格していきます。
でも現実には、塾の単元の進むスピードが速すぎて、自分の能力(消化スピード)が追いついていない子がほとんどです。一回その場で解けるようになっても、丁寧に復習しなければすべて忘れてしまいます。
やらないよりはやったほうがいいでしょうけれど、実際、あの大量のテキストをすべて完璧にする必要はありません。大切なのは、我が子に合わせた「取捨選択」なのです。
ちなみに、あの頃の学歴至上主義だった私は、失速していくS君を見て「可哀想に……」なんて思っていましたが、実際の人生は違いました。彼はその後、自分に合った中学校に進学し、最終的には東大に行ったと風の噂で聞きました。中学に入り、一時的な偏差値よりも、復習の大切さと自分に合った取捨選択に気づけたのだと思います。
偏差値ばかりに目がいってしまうと、「塾のテキストがすべて解けないとダメだ」という強迫観念に駆られてしまいますが、実際の人生は違います。一時的な高いほど幸せかというと、そんなことはありません。
生きていく上で、義務教育の間に習うくらいの「基礎学習」は絶対に必要です。ここだけは、焦らずじっくり身につけるべきところだと考えています。
◆ 医師の大先輩たちも悩んでいた「我が子のできなさ」
医学部学生時代の病院実習(ポリクリ)などで上級医の先生につくと、よくこんな相談をされました。 「どうやってそんな賢い中高に行けたの? 実はうちの子が今受験生で、大手の塾に行かせてるんだけど成績がパッとしなくてさ……」
当時はまだ独身でピンときていませんでしたが、今なら先生方の痛いほどの気持ちが分かります。 先生方はみなさん『自分はできたのに、どうして我が子はできないんだろう? 俺の子なのに……』という思いを抱えていたのです。
医学部にもピンキリがあるとはいえ、全員が世間的には最難関と言われる”医学部”の受験を突破してきたメンバーです。「自分はそこそこ勉強ができた」というプライドがある分、子どもにも期待してしまいます。
確率の法則である「平均回帰(親が優秀でも、子は集団の平均値に近づくこと)」を考えれば当然の現象なのですが、やっぱり親としては期待してしまう。そして、その期待があるからこそ、基礎がしっかりしていない段階なのに、塾の難易度の高い問題を無理やりやらせてしまうという悪循環に陥っていたのだと思います。
3. 市販ドリルの最大のメリットは「我が子だけの完全オーダーメイド」ができること
誤解のないように言うと、大手塾のテキストは本当に実によくできています。私も家庭教師をしていた時、非常に教えやすくて感動しました。
特に(自分が通っていたからと贔屓目かもしれませんが)SAPIXのテキストは、授業中に問題を解き、宿題で何度も数値替えの類題が出され、さらに少しだけアレンジされた応用問題を解く……という、素晴らしいスパイラルを組んでいます。
しかし、私のような「ゴリゴリ全部解けるぞ!」という学習体力お化けは、世の中にそうそういません。(逆に、あの膨大な量を苦もなく解けてしまうタイプのお子さんにとっては、塾は最高の教材です! 他に問題集は一切買い足さず、塾のテキストだけ信じてやれば勝手に成績は上がります。SAPIXの教材全部解けるような優秀な子の親が、不安になって早稲田アカデミーにも入れてさらに市販の問題集もやらせて子供が潰れかけている!みたいな例も見たことがあります、、、)
現実の多くの子どもたちは、そもそもあの教材を解くだけで一苦労です。そして、教科や分野ごとに大きな「得意・不得意の差」があります。 「先週の単元は全部解けたけれど、今週の単元は時間が足りなくて解ききれない」 「無理やり答えを埋めてやったことにしたから、親だけ満足して、実際には結局同じ系統の応用問題を全部間違えている」 「圧倒的に復習が足りない!」
小学校6年生にもなれば、もう過去問や演習あるのみですが、低学年から5年生中盤までは、塾のスピードに流される前に、もう少し手前でしっかりと苦手を克服していく方が強いのではないかと思います。逆にしっかり身に付けていかないと、カリキュラムに沿ってどんどん進む塾の波に飲まれ、不得意分野がずっと取りこぼされたまま→組み分け試験のような実力試験でダメになってしまうのです。
その点、市販ドリルは最強です。
- 「計算は得意だから、ちょっと先取りして2年生のものをやろう」
- 「図形は苦手だから、じっくり1年生のパズル系ドリルを挟もう」
といったように、子どもの得意・不得意(凸凹)に完全に合わせたカリキュラムを、親の手で自由にカスタマイズできます。 最高峰の塾でトップを取ることに固執さえしなければ、市販ドリルだけで生きていくために「必要十分な学力」は絶対に身につきます。
4. だけど……「プロ」の自負がへし折られた我が家のリアル
……と、ここまで偉そうに語ってきましたが、最初から我が家の家庭学習が上手くいったわけではありません。
あの時、実習中の上級医たちが「なんで俺の子なのに……」と頭を抱えていた意味が、今ならとってーもよく分かります。
家庭学習を始めた当初、私がプロの目線で厳選した(今思えば難易度が高すぎた)ドリルを、我が子は華麗に無視しました(笑)。
それどころか、圧倒的に体力もない。 「え、運動会ごときで昼寝するほど疲れるの!?」 「何故こんなに音読が辿々しいの!? そこから!?」 と、毎日がつまづきの連続でした。 (※ここには、おそらく「文字が読みづらい」という子どもの特性がありそうなのですが、その辺に関してはまたいずれ詳しく書こうと思います)
元家庭教師で「私は教えるのが上手い」と思っていたプライドは、我が子の前で見事に粉砕され、家庭学習の時間は毎日険悪なムードに。 子供は違う人間だ、ということも、頭ではわかっていたはずなのに、やっぱり自分の子供の頃を基準に考えてしまう、、、。仕事で疲れていることもあり、ドリルを「やらない」「やりたくない」と怒る子どもに対して、見守るだけの余裕がなくなり、私や夫もイライラを爆発させてしまう日々……。
そんな絶望の中にいたとき、「ある1冊のドリル」との出会いが、我が家の家庭学習を180度変える転機になったのです。
次回は、崩壊寸前だった我が家を救ってくれた、その「運命のドリル」について熱く語りたいと思います!



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